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第86号

2016年04月25日発行

伊勢志摩サミット
各国協調の財政出動で世界経済を救え

参議院議員西田昌司

スティグリッツ、クルーグマン両教授の指摘

京都市長選挙 門川大作さんが見事に当選され、
喜びの万歳三唱

 3月16日に世界経済について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」が官邸で開催され、講師としてノーベル経済学賞の受賞者であるジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授が招かれました。また、22日には同じくノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学大学院センター教授が招かれ、両教授から来年4月の消費税の延期が提言された旨、報道されました。会談内容は非公開であるにも拘らず、この様な報道がなされた背景には、両教授ともにデフレ下での消費増税にはもともと消極的な立場であったことが挙げられます。増税延期への布石と解釈したマスコミ報道ですが、両教授の真意は別のところにあります。
 クルーグマン教授が後日公開したブログの中で述べられていることは、消費税の増税延期のことではなく、財政出動の必要性についてです。「デフレから脱出するためには3年間財政収支のことを気にせず政府が財政出動することが必要である。日本は自国通貨の国債であり、国債残高が多かろうがギリシャの様に破綻することはない。低金利の現況においては国の債務残高よりも将来デフレが続いているのかどうかが遥かに重要である。今は財政収支など気にする様な状況ではない」。
スティグリッツ教授も同様の主張をされています。「緊縮財政を止めるべき。財政赤字に対する厳重な制約が失敗であった。増税と歩調を合わせた支出拡大が経済を刺激する。必要なことはインフラとテクノロジーへのより積極的な投資である」つまり、二人の主張は、財政赤字など気にせず積極的に財政出動をすべきであり、予算のシーリングを緩和して持続的な長期投資をすべきだということです。これは私が何年も訴え続けてきたことと全く同じです。

財政出動に対する誤解

 したがって、今回のマスコミでは消費増税の再延期が既定路線になったかの様な報道は、私には両教授の主張とは違う方向に世論が誘導されていると思えて仕方ありません。
 なぜなら、その背景には、依然として0財政出動イコール無駄なバラマキという誤解が根強く存在しているからです。
バブル崩壊後、民間や政府に消費や投資よりも節約を優先する風潮があまりにも蔓延してしまったことがその原因です。確かに、無駄を排しできるだけ節約することは日本人の美意識にも叶います。しかし、その結果誰もがお金を使わなくなれば経済は成り立たなくなることは自明の理です。この様に個別的には正しいけれども全員がそれをすれば社会が成り立たない様な個と全体の矛盾を合成の誤謬と言います。まさに財政出動イコール無駄なバラマキというのはその典型でしょう。

デフレからの脱出には脱出速度が必要

TOKYO MX「西部邁ゼミナール」に
出演いたしました

 さて、クルーグマン教授は、デフレからの脱出には、脱出速度が必要であると述べています。人工衛星を打ち上げるには、地球の重力圏から逃れるだけの速度が必要です。これを地球脱出速度と言い、これより速度が遅いと何度打ち上げてもロケットは地球の重力圏から脱出できず、地球に舞い落ちてしまいます。同じ様にデフレ脱出には短期的に徹底的な財政出動が必要であり、少ない財政出動では何度やってもデフレに舞い戻りデフレ脱出に失敗するということで、誠に分かりやすい例えです。
 元々アベノミクスは大胆な金融緩和と機動的財政政策と民間投資を喚起する成長戦略の三本の矢から成る総合的な経済政策が売り物でした。しかし、現実は日銀の金融緩和は継続していますが、機動的財政出動は政権復帰時の一年だけでその後は減り続け、公共投資は民主党政権以下の水準に戻っています。その結果、民間投資も中々伸びない状況が続いています。これはデフレ脱出速度が足りなかったということです。最初は勢いよく発射したロケットでしたが、このままではデフレの引力圏から脱出出来ず、またもやデフレに落ち込んでしまいます。デフレ脱出のためには第二段目のロケットに点火をする必要があるのです。

財務省の判断の誤り

 財政出動が2年目以降は継続されず、逆に消費税を5%から8%に増税した結果、アベノミクスにブレーキがかかり、デフレからの脱出速度が不足しているが日本の現状でしょう。この背景には、財政出動の継続を拒み財政再建のため増税を急ぎすぎた財務省の判断ミスがあることは否定できません。
 3年前、消費税8%への増税の是非を自民党税制調査会で議論していました。この時も私は「今は増税の時期ではない、完全にデフレ脱出してからにすべきだ。もしどうしても増税するなら、増税額以上の財政出動をすべきだ。さもないとデフレに舞い戻る恐れがある」ということを再三主張してきました。正に今日の日本の状況は私が心配をしていたとおりになっています。
 アベノミクスでロケットスタートを切った第二次安倍政権でしたが、消費増税が早すぎたため、そして財政出動を継続しなかったために、景気回復は足踏み状態になっています。これが安倍総理には大きなトラウマになっているように思われます。10%への再増税を1年半延長し衆院の解散で信が問われましたが、さらにまた再延長があるのではないかという憶測から衆参ダブル選挙も噂されています。

先進国の「日本化」

 ところで、ノーベル賞の両教授は共に積極的な財政出動が必要と述べています。その理由は単に経済政策としてだけでなく、そもそも先進国が需要不足に陥っているからなのです。特にクルーグマン教授は、先進国の「日本化」を指摘しています。
 先進国では、経済のグローバル化により民間投資は海外に流出し、国内では民間投資が減少します。一方、高い生活水準を保つために年金や医療介護は勿論のこと、教育やインフラ整備など公的分野での投資が必要になります。本来こうした公的分野での投資が民間投資の減少による需要不足を補うことになるのです。
 90年代以降日本ではデフレが進行していますが、その最大原因は経済のグローバル化による民需の喪失を公需で穴埋めしなかったためです。ゆえに、その様にデフレが長期に渡り進行している状態を「日本化」と言い、それが世界に広まりつつあるとクルーグマン教授は指摘しているのです。
 リーマンショック後の世界経済を牽引してきたのは中国でしたが、その成長に翳りが見えてきました。牽引車が失速すれば世界経済は景気の停滞局面には入らざるを得ないでしょう。これを放置すれば世界は長期デフレに陥り、正に「日本化」してしまいます。
 それを止めるには政府が財政出動をして公需を増やすしかないのです。世界を「日本化」から救う為に、先進国が協調して財政出動をすることの必要性をクルーグマン教授は説いているのです。

今こそ生活水準を欧米並に引き上げるチャンス

西田昌司京都政経パーティーを開催いたしました。
各方面より多数のご参加を賜り、誠にありがとうございました。

 日本では元々欧米先進国に比べ、こうした公的分野への投資は少なかったのですが、戦後の経済成長が民間部門の国内投資を増加させてきたお陰で、需要不足になることなく経済は拡大してきたのです。したがって経済がグローバル化して民間部門の投資が少なくなってきた今こそ公的分野での投資を増加させ生活水準を欧米先進国並に上げるチャンスです。
 例えば、街づくりです。欧米先進国で日本の様に東京一極集中している国は有りません。そもそも、日本ほど大都市に人口が集中している国は有りません。これはアジア的な現象です。インフラが大都市にしか整備されず、産業が大都市に集中した結果です。これは豊かさでなく貧しさの象徴でしょう。この結果、地方が寂れ故郷や家族の喪失感を感じている人も多いのではないでしょうか。今こそ、東京一極集中を是正し財政出動で故郷と家族の再建に取り組むべきなのです。
 私が提案している北陸新幹線の舞鶴ルートもそのための具体策です。これは、日本海側と京都、学研都市、大阪、関空を結ぶことで東京に対抗できるメガリージョンを創設するためのものです。

伊勢志摩サミットに向けて

 冷戦崩壊後の、資本の自由化は大きな富を各国に与えた反面、多くの傷跡も世界中に残してきました。資本を自由にするだけでなく、それを世界各国が管理することも必要です。各国協調で財政出動するということは、行き過ぎた資本論理に対して国家が警鐘を鳴らすという意味であり、正にサミットに相応しい議題です。伊勢志摩サミットでは、世界経済のデフレ化を止めるために世界各国が協調して財政出動をすべきだと議長国日本の安倍総理から提言されることを多いに期待したいと思います。
 そのためにも先ず、「隗より始めよ」です。日本が率先して財政出動をすべきです。積極財政を阻害するPB(プライマリーバランス)論やそれに基づく予算のシーリングなどのデフレ下では無用の論理に振り回される必要はありません。スティグリッツ、クルーグマン両教授はこのことを総理に提言されたのです。

樋のひと雫

羅生門の樋

 先日オバマ米国大統領がキューバを訪問し、ラウル・カストロ国家評議会議長と国交再開に向けた握手を交わしました。ラウルがオバマの右手を高く掲げている写真を見て、世界の変化を感じられた方も多かったのではないでしょうか。1959年フィデル・カストロとチェ・ゲバラに率いられた民衆が腐臭を放つバチスタ政権を倒した後、農地解放を契機としてフィデルはアメリカと袂を分かちました。そして、彼は社会主義政権樹立を宣言すると共に、当時のソビエト連邦の庇護下に入ります。'61年の国交断絶と'62年1月の米州機構からの除名を経て、米国がソ連によるミサイル配備を阻止しようとした'62年10月のキューバ危機は余りにも有名です。10月22日の米国の海上封鎖から始まり、28日のソ連輸送船団の撤退までの1週間は、世界核戦争を現実のものとした日々でした。(映画の素材にもなりましたので観られた方も多いのではないでしょうか。)
 人民の解放と社会主義建設を担う老練な政治家と自由主義の旗を掲げた新進気鋭のカリスマの激突は、共に譲ることの出来ない陣営の未来を掛けた戦いでもありました。双方に非難の応酬と表面的には軍事の駒を進めながら、外交戦術を駆使する。自らの決断の一つひとつが、数十億の人類の生存を担っているという政治家の葛藤の闘いでもあったと思います。また、この超大国の衝突の中で、当時35歳のフィデルは米国に屈することなく、生まれたばかりの新生キューバを守り抜きます。後々50年以上にわたる経済封鎖と云う犠牲を払いながら。
 2大強国の争いの中で、国の行く末と民衆の生存権を守るために苦悩する若き指導者の姿を見るのは私一人ではないでしょう。オバマのハバナ訪問を、疲弊した経済を立て直すために弟のラウルは歓迎します。オバマの人権の尊重と政治犯の釈放という発言に対して、ラウルは刑務所の見学を提案しますが、兄のフィデルは「帝国主義の贈り物は要らない」と答えました。何度も米国による暗殺を逃れ、激動の世界情勢の中でキューバを守ってきた老政治家の矜持の一言であったように思えます。
 初めてハバナを訪れた時、電力も乏しい暗い街並を見ながら飲んだCuba Libre(キューバ特産の酒ロンをコーラ割ったもの)を思い出します。コーラが自由の味なのかと自問しながらホテルで飲んだカクテルは、農奴然とした生活から解放された民衆が、次に人間としての自由を求めて創った味だったのかも知れません。

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